「循環する通貨」プロジェクトの提案
本プロジェクトでは、地域内限定の専用の電子通貨システムを構築し、支援を必要とする人へのお金の供給と、流通している金額の一部回収を繰り返し、回収した金額をまた供給に回すことで、半永久的なお金の循環を作ります。コロナ禍下の支援金を地域外に散逸させることなく循環させることができ、持続可能なベーシックインカムともなり得て、地域経済を大きく活性化します。
🧿現状の課題は一方的なお金の流れ
コロナ禍のなか、経済状況の改善が急務となっていますが、問題は、人々の外出の減少でお金が動かなくなったことです。社会におけるお金の総量が足りていないわけではありません。外出を伴う経済活動が止まったことで、観光や飲食など外出に関連する様々な産業において、収入が途絶しているにも関わらず支出が継続していること、つまりお金が出て行く一方であることが問題です。
観光などの外出関連産業から出て行くお金は、主に巣ごもりに関わる産業の富裕層と富裕企業に溜まっています。つまり、現状の課題は、外出を伴う産業から巣ごもり需要産業の富裕層と富裕企業に一方的にお金が流れていることです。
🧿対策はお金を循環させること
したがって対策は、富裕層と富裕企業から外出関連産業にお金を戻すことです。一方的な流れのお金を戻して、外出関連産業を含めたお金の循環を形成することです。
現在、緊急事態宣言地域の外出関連産業にお金を支給する方式の対策が行われていますが、この方式では、外出関連産業の人々が一度そのお金を使ってしまったら、そのお金は全国の巣ごもり需要産業に散逸して最終的には富裕層と富裕企業の預金口座に溜まってしまい、元の地域にも外出関連産業にも戻ってきません。
🧿政府&自治体による支援金は経済格差を拡大
政府が赤字国債で予算を執行すると、世の中のお金の総量が増えます。この増えた分で支援が必要な人にお金を支給すると、前述のように、このお金は全国に散逸し、最終的には富裕層と富裕企業の預金口座に辿り着いて溜まってしまいます。この場合も、元の地域にも外出関連産業にも戻ってきません。世の中に増えたお金が富裕層に溜まるので、社会の経済格差を拡大する結果となります。
🧿「令和のコロナ禍」は「平成の経済停滞」と同じ構造
コロナ禍の上記課題は、実は平成の経済格差拡大[1]と同じ構造です。コロナ禍では、一部の産業が極端な支出超過となっていますが、コロナ禍以前は、産業によらず中低所得層から富裕層への一方的なお金の流れが発生していました。このため中低所得層は「消費自粛」を余儀なくされていました。
図1に、年収と、年収以外の金融収支の関係を示します[2]。金融収支とは、家計が持つ金融資産(預貯金や株式など)および負債(借金)による利子等の受取や支払のことで、プラスはお金を受け取っていることを、マイナスはお金を支払っていることを意味します。図1から、年収の低い世帯からはお金が出て行き、年収の高いわずかな世帯にはお金を入って来る構図が明らかです。特に横軸の一番右の、一番年収が高い層は圧倒的に多くのお金を受け取っています。現行の金融システムは、もともと存在する年収の経済格差を更に拡大する方向に、通貨の再分配を行っているのです。正当な勤労収入であれば高年収は問題ありませんが、金融収支がその格差を拡大するのは問題です。
🧿富裕層に流れ込み続けるお金
GDPは、“お金がどれだけ世の中を回ったか”を表しますが、失われた30年の間、中低所得層は消費自粛を強いられてきたため、お金が動かず、GDPは長期停滞したままでした。図2(a)に、日本の通貨総量とGDPの推移を示します[3]。1990年代のバブル崩壊以降、GDPの停滞にもかかわらず通貨総量は増加し続けており、1980年頃はGDPと同程度であった通貨量が、現在はGDPの約3倍に達しています。お金を使えばGDPは増えるので、図2(b)の通貨量とGDPの間の差は、お金が銀行口座に溜まっていて動いていないこと、つまり通貨の沈殿を意味しています。図2(b)から、沈殿する通貨が増加し続けていることがわかります。
この通貨総量の増加は、政府が赤字国債で予算執行したことによるものです。この増加した分のお金は、最初は中低所得層にも配られますが、その後は中低所得層から富裕層と富裕企業に一方的に流れ込み続け、現在、900兆円を超えるお金が銀行口座に沈殿しています。一方で、中低所得層に入るお金は所得の減少や社会保険・税の負担増で少なくなり、社会の中でお金が大きく偏在しています。
「平成の経済停滞」と「令和のコロナ禍」のお金の偏在について、対策は同じです。富裕層と富裕企業から、中低所得層や外出関連産業に、お金を戻すことです。
🧿対策の仕組み
本プロジェクトでは、地域内限定の専用の電子通貨システムを構築し、支援を必要とする人への定額でのお金の供給と、流通している金額の定率での回収を繰り返し、回収した金額をまた供給に回すことで、半永久的なお金の循環を作ります。
具体的には次のようなシステムです。毎月、月初に定額の金額、例えば5万円を、地域内だけで使える専用の電子通貨で希望者に配ります。地域内の商店などもあらかじめ専用通貨を使えるようにしておきます。支援希望者が地域内において購買にそのお金(専用通貨)を使用することで、地域内の商店などにも専用通貨が流通します。その後、月末に全ての専用通貨保有者から、通貨保有の多寡に応じて定率、例えば1%(3万円保有なら300円)を回収し、次月のお金の定額供給に回します。
このように、「定額供給・定率回収」のシステムで、割合としては小さいが強制的なお金の循環を作ります。また、お金を使い切れば回収されないので、人々はお金をできるだけ使おうとします。この結果、お金の自発的な循環が促進されます。
🧿外出関連産業と巣ごもり産業を含む、散逸の無い通貨循環の形成
また、外出関連産業は使い切ることが予想され、巣ごもり需要産業では溜まることが予想されるので、巣ごもり需要産業から多く回収されることになります。さらに、専用の電子通貨が使えるのは地域内のみなので、コロナ禍下の支援金が地域外に散逸することがありません。
このように、支援金額の総額を専用の電子通貨に閉じ込める形で支援を行い、支援希望者へのお金の供給は定額で平等に、回収は保有の多寡に応じて定率で行うことで、お金を必要な人に回すことができ、地域内の経済を大きく活性化できます。「定額供給・定率回収」のこのシステムは持続可能な経済活性化策です。新しい通貨の仕組みであり、特許を申請済みです。
🧿「循環する通貨」システム導入により期待される効果
■ 経済活性化
加入希望者全員への定額供給は加入者の生活への投資であり、加入者の購買力を支えます。また通貨保有者は全て、定期的な回収の前になるべく使い切ろうとするため、経済活動が促進されます。定額供給の生活投資と定率回収による通貨の循環で、地域経済を活性化します。
※経済活動の目的は現在、お金の蓄積と、そのための経済成長と考えられていますが、本来は人々の生活水準の維持または向上です。生活水準を向上させれば経済は成長しますが、経済成長は単なる評価尺度に過ぎません。経済規模を決めるのは生産付加価値総量であり、その増加分は「生活水準向上×人口」で表され、経済成長は「Σ人数(生活水準の向上)」と等価なので、富裕層だけでなく国民全体が生活水準を上げることで経済は成長します。成長戦略は生活水準向上戦略であるべきです。当システムによる定額供給の「生活投資」は、人々の生活水準を向上させることで実体経済を活性化し、結果的に経済成長を促進します。
■ コロナ禍の影響格差の縮小
定額給付&定率回収の組み合わせにより、給付は加入希望者全てに平等に定額で行う一方、回収時は、通貨保有が多い人は多く、少ない人は少なく回収されるので、現在ある格差を縮小することができ、コロナ禍で逼迫する外出関連産業に相対的に手厚い支援策となります。
■ 電子通貨の使用によるコストの最小化
当システムでは専用の電子通貨を用意し、支援は全てその電子通貨で行います。したがって、支援金を全てその電子通貨の中に閉じ込めるので、供給から回収まで自動化することができます。したがって、システム構築のための初期投資を行ったあとは、最小コストで通貨を循環させ経済を活性化させることができます。
■ 通貨保有者全員で支える地域通貨
財源を地域内の銀行からの融資とした場合、利子を当システムの専用通貨によって保有者全員から集めることで、安定的に利子を支払うことができます。具体的には、月末にお金の保有の多寡に応じてたとえば0.3%を徴収することにより、銀行にも安定な収入をもたらします※。これは、地域内通貨を通貨保有者全員で支えるシステムとなります。
※銀行内でも一部の従業員が当システムの専用通貨を受け取る必要があります。
■ 少子化対策
子どもに対しても定額供給を行えば育児支援となり、少子化対策に寄与します。
🧿必要な財源
地域内の1万人の希望者に、毎月5万円相当のお金を配り、毎月1%の回収を行う場合、これを継続するために必要な金額は、初年度と次年度はそれぞれ50億円程度で、その後の年度当たりの必要金額は徐々に減少し、30年の総額で500億円です。500億円で永久に5万円を1万人に配れます。
国レベルで実施する場合、1億人の人に毎月3万円を配るために必要な金額は、回収割合を1%とした場合、300兆円です。30年の総額で300兆円あれば、1億人に未来永劫3万円を配り続けられます。アメリカは昨年、コロナウィルス対策で200兆円以上を投じたそうなので、それほど非現実的な金額ではないのです。
※総額は、下記の式から導出できます。
総額 = 毎月の供給額 x 人数 ÷ 回収割合
上記の1億人の例の場合、3万円 x 1億人 ÷ 0.01 = 300兆円 となります。
回収割合を高くすれば、同じ金額でより多くの人に供給が可能となります。
🧿協力型社会を日本から世界へ
このシステムはもともと、経済格差抑制、ワークシェアリング推進、地方活性化や少子化対策として考案されたものですが、いまコロナ禍で疲弊した経済において非常に有効であり、起死回生の経済活性化策となり得ます。また、このシステムは支援のお金を循環させるものであり、勤労収入の多寡を均一化するわけではないので社会主義的ではありません。このシステムの目的は、お金を社会の隅々まで循環させることにより中低所得層の窮乏化を防止することであり、協力型経済の形成です。世界中で経済格差が拡大し続け、競争型社会の不安定化が顕著であるなか、協力型経済による持続可能な社会を日本から発信することは非常に重要と考えられます。
[1] NHK、「インタビュー森永卓郎さん「とてつもない大転落」」
[2] 堂免信義、「現代の貨幣経済における経済格差拡大メカニズムの理論的考察 --その3 : 通貨の電子化がもたらす格差膨張メカニズム」、Journal of Integrated Creative Studies 2018-005-a(2018)
[3] 堂免 恵、堂免涼子、「現代貨幣理論実施における副作用-通貨総量の増加が招く経済格差拡大と金融膨張」、日本未来力 NM2020-01(2020)
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湧志創造