良いインフレ 悪いインフレ
🔮 二種類のインフレ
受益者という側面から見ると・・
良いインフレとは、労働者や消費者など一般大衆が利益を得られるインフレです。悪いインフレとは、資本家や経営者だけが利益を得るインフレです。
何の価格が上がるかという側面からみると・・
良いインフレは、消費者がより高機能品、高付加価値品を購入するようになって起こるインフレです。悪いインフレは、ただ物の単価、物価が上がるインフレです。
良いインフレと悪いインフレは、もちろん、100%どちらかが起こるわけではなく、だいたい両方が混ざり合ってインフレになります。でも、どちらに寄っているかで、人々が豊かになり社会が安定に向かうか、経済格差が拡大し社会が不安定になるかが決まります。
🔮 日本のインフレはだいたい良いインフレ
いま世界で起きているインフレは、大半が悪いインフレです。株主資本主義とか金融資本主義と呼ばれる資本家に有利な制度のもと、資本家や経営者だけが利益を得て、大半の労働者は受益できず、経済格差がかつてないほど開いています。オックスファムは毎年、経済格差の指標を発表していますが、世界の所得上位が得る金額は増え続け(こちら)、多くの国で社会が不安定化しています。
日本は今、この悪いインフレが起きていない、世界でもかなり珍しい国です(だから平成はずっとデフレでした)。
そして、日本の江戸後期や戦後の経済成長期に起きたインフレは、だいたい良いインフレの傾向が強かったのです(もちろん100%じゃないですよ、なんでも100%はありえませんから)。
江戸後期の18世紀後半は長屋の住民が江戸の経済を下支えする中流階級となり、その経済成長率は当時の世界2位だったそうです。様々な職業が生まれて産業間の取引が活発になり、信頼を基本とする商人道が生まれ、江戸中の2500軒の商店を網羅するガイドブックが発行され、グルメガイドまであったと。すごいですね!(NHK「大江戸」より)
日本の高度成長期もだいたい良いインフレでした。炊飯器、掃除機、白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫などの新製品が初期の高度成長を支え、続いてカラーテレビ、クーラー、自動車。高機能品や高付加価値品、つまり高価な製品を人々が購入して生活水準が上がるに連れ、必要な通貨量も増えてインフレになり、人々の所得も大きくなりました。この結果、「一億総中流」と呼ばれる、世界的にも珍しい状態が出現しました。
🔮 日本の「三方良し」 vs 世界の「経済合理性」
日本で悪いインフレが起きなかった大きな要因の一つは、「情けに通じ、足るを知ることが富である」とする日本橋の商人道や、「三方良し」という近江の商人道から、渋沢栄一の道徳経営や公益資本主義へとつながる、日本の「道」だったのでは、と思います。つまり、労働者や消費者の「足元を見る」ことを良しとしなかったのです。(ちなみにもう一つの大きな要因は企業の借金です:こちらに書きました)。
外国では足元を見まくりです。たとえば市場独占してから価格を引き上げる巨大企業(ジョセフ・E・スティグリッツ著「これから始まる「新しい世界経済」の教科書」より)。1980年代にアメリカのエコノミスト達は、世界市場を独占した日本企業が独占的利益獲得のための価格引き上げに走らないのを不思議に思ってきたそうです(R・A・ヴェルナー著「円の支配者」より)。アメリカでは、安値攻勢で市場を独占した後に価格を引き上げることが当たり前で、それを経済合理性と呼んだりします。日本ではそれは信頼を損ねることで、「三方良し」の道に外れることでもあります。
日本ではむしろ、デフレに入ってから経済格差が開き続けています。その理由は、小泉&竹中”改悪”で非正規雇用を激増させ、経営側が労働者の「足元を見る」文化が根付いてしまったからではないでしょうか。外国人研修生の問題など、足元見てる人はもちろんいたけど、昔は多数派じゃなかった。。今は大企業もみんなやってます。。残念ながら。。
雇用形態の多様性は必要ですが、働き方を選択するのは雇用者側じゃなくて、労働者側です。
🔮 インフレは必ずしも怖くない
バブル時代以前の高度成長期のインフレは、明らかに良いインフレでした。「一億総中流」が達成できて社会は安定しました。バブル崩壊後の日本では、国内の通貨総量は増加していますが沈殿する分が多すぎて社会に還流して来ないのでインフレが起きませんでした。
「循環する通貨」は希望する人々全員に通貨を直接供給するので、少なくとも今ぎりぎりの生活水準を少しは上げることができます。でもすぐにはインフレにはならないでしょう。まだまだ世の中がぎりぎり過ぎて。。
これから、人々がより高付加価値の贅沢なものを買える世の中にできるかどうか。そうなればインフレが起きるかもしれませんが、それは次の「良いインフレ」となるでしょう。インフレは必ずしも怖くない。どういうインフレにするかは、足元を見ない文化を継続できるかどうか。協力型経済を形成できるかどうか。私たちの行動にかかっているのだと思います。
湧志創造